Do Loop

何かに脅かされたような感じで目が覚めた。どうやらへべれけに酔ったまま寝てしまったらしい。今は夏。とろんとした熱帯夜の空気が気だるい…
なんだかひどく体中が痛い。痛いだけじゃない。ワイシャツに血がついているのを見つけてぎょっとした。どうやら鼻血らしい。今はもう収まっている。上半身を起こしてあたりを見る。真夜中の団地だ。俺の家のある団地。足元にフラワーポッドが転がっている歩道の横に飾ってあるアレであってどうやらそれを蹴飛ばしたか躓いたかしたらしい。土がこぼれている。
それにしても酷く酔っている泥酔である。これだけのことを確認するのにゆうに30分はかかっている。30分?腕時計を見たがなんと止まっている故障しているらしい。更に30分だろうと思われる時間をかけて起き上がるとにかく家まであと少し帰りつかないとならない。今日は妻は旅行だ。俺一人だけ。だから気が緩んだむしろこういう機会を逃してなるものかと同僚と飲みまくった。梯子しまくったこんなに飲んだのは久々。
…そこまで考えて歩道の上にそびえる建物を見上げる。窓に灯は燈る家はなし。こんな夜中だから当然だ。一番下の窓に目をやる。真っ暗な窓を見るとちょっと何か嫌な感じがした。
よたよたと歩き出す。歩道にしつらえられた階段を登る。普段はどうどいうことはないがこういう時は体が重くて辛い。
建物の入り口をくぐる。俺の家は1Fだから階段をこれ以上登らなくてもよい。
とまあここまではよかった。
廊下の常夜灯が故障していてどれがどのドアだかさっぱり判らない。表札を…読めない。視界がなんだか伸びたり縮んだりしている。
ちょっと考えた後カギを適当にねじ込んでドアをガチャガチャやって開いたら当り。作戦を思いついた。
1発目…ハズレ。2発目3発目…ハズレ。4発目を試す前に郵便受けにささったままの新聞に
目をやる。朝日新聞だからこの家は違う。
そこを飛ばして次のドアにカギをガチャガチャやるとドアが開いた。これでゴールイン…
と思ったその刹那室内でバタバタと音がした。慌ててドアを開く。
電燈のスイッチが… 思ったところにスイッチがない。月明かりが奥の窓からさしてきて外の風が入ってきている。誘われるように玄関/台所を抜け奥のリビングに向かう。ベランダのドアが開いていてカーテンが夜風にそよいでいる。なんだかとても嫌な感じがした。外を見ると遥か遠くを走って逃げて行く男の姿が。驚いてあたりを見まわす。と,絨毯に血が。点々とベランダまで続いているではないか。一体なんだこれは。
…と突然気付いた。家具が全然違う。それどころか自分の家ではない。カギが開いてたドアを偶々開けてしまったらしい。
慌てて玄関に戻り靴を穿く。そこまでは良かった。が,ドアを開けようとしたその瞬間突然ガチャガチャとドアが音を立てた。
慌てて靴を穿いたままリビングにとって返す。足がもつれて転ぶ。鼻を強かぶつけて出血する。
鼻を押さえたままベランダから外に飛び出した。物凄い勢いで走って走って…突然何かに転んで意識を失った。

…何かに脅かされたような感じで目が覚めた。どうやらへべれけに酔ったまま寝てしまったらしい。今は夏。とろんとした熱帯夜の空気が気だるい…